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高松高等裁判所 昭和57年(ネ)208号 判決

控訴人

株式会社トーヨー

右代表者

豊島日出夫

控訴人

豊島日出夫

控訴人

豊島清一

控訴人

高野範

控訴人

檜垣明彦

控訴人

菊川通朗

右六名訴訟代理人

山中順雅

被控訴人

株式会社愛媛相互銀行

右代表者

宮武隆

右訴訟代理人

宮部金尚

主文

原判決中控訴人らと被控訴人関係部分を取り消す。

被控訴人の控訴人らに対する請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一  申立て

一  控訴人ら

主文同旨

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二  主張

次に付加するほか、原判決事実摘示第二のうち控訴人らと被控訴人該当部分記載のとおりであるから、それを引用する。ただし、原判決三枚目裏三行目冒頭から四枚目表一行目末尾までを次のように改める。

「4 被控訴人は、①昭和四九年一〇月二二日、控訴会社から元金の内入金六〇〇万円と同月三一日までの利息ないし遅延損害金の支払を受け、②昭和五一年六月八日、競売代金より元金の内入金一五一万五九三〇円と同日までの遅延損害金九九六万二〇〇〇円の支払を受け、③昭和五七年一二月六日、亡楠橋光之助の相続人らから元金の一部弁済として一〇〇〇万円の支払を受けた。

よつて、被控訴人は、控訴会社に対しては消費貸借契約に基づき、その余の控訴人らに対しては連帯保証契約に基づき、元金四〇〇〇万円のうち一部弁済金合計一七五一万五九三〇円を控除した残金二二四八万四〇七〇円及びこれに対する昭和五七年一二月七日から完済にいたるまで約定利率年18.25パーセントの割合による遅延損害金と昭和五一年六月九日当時の残元金三二四八万四〇七〇円に対する同月から昭和五七年一二月六日までの約定率年18.25パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。」

(控訴人ら)

一  抗弁3の代物弁済予約完結権行使のいきさつは、次のとおりである。

1 控訴会社が昭和四九年一〇月二六日倒産するや、被控訴人は控訴会社の代表者印と本件船舶の権利証等を控訴会社から取上げ、控訴会社に代つて、本件船舶につき臨東建設との傭船契約を継続した。

2 昭和五〇年三月二六日控訴会社と被控訴人との間に、本件船舶について代物弁済の予約が成立し、翌二七日付で所有権移転請求権の仮登記がなされた。

3 昭和五〇年四月二一日控訴会社には何の連絡も通知もなく、被控訴人は太平海運株式会社(以下、太平海運という。)に依頼して本件船舶を木更津港から東予港へ回航し、その費用三〇〇万円を太平海運に支払つた。右回航後、被控訴人は、船長室やエンジン室等のキー全部を太平海運から受け取つた。

4 前記代物弁済予約成立の前後ごろから、被控訴人は太平海運に対して、本件船舶を買わないかと持ちかけた。すなわち被控訴人の今治支店長村井昭郎は太平海運代表取締役松原久義に対し、本件船舶の登記簿謄本(乙二号証)を見せて「このように登記も出来ており、本人らも借入金の支払は不能になつているので、被控訴人が自由に処分が出来るのだ」と言つて、本件船舶を買うことを勧めた。

5 その結果村井支店長と松原代表取締役との間に、本件船舶を太平海運に売り渡し、更に七〇〇〇万円の融資をするという約束が成立した。しかるに、松原代表取締役が太平海運と昭和企業株式会社との間の本件船舶の傭船契約書(乙第六号証)を被控訴人に持参したら「もう手を引け。後は、被控訴人がするから。」と村井支店長の後任の福田支店長からいわれた。

6 乙三号証中の本件船舶を太平海運に売ることを承認する取締役会議事録の原稿を被控訴人が作成し、中村仁一司法書士事務所へ持参した。

7 右一連の行為を見ると、被控訴人は本件船舶につき、代物弁済予約完結の意思表示を具現したものであるから昭和五〇年四月ごろ、控訴会社は、本件消費貸借契約上の債務を本件船舶をもつて代物弁済したものというべきである。

二  本件船舶の時価について

1 本件船舶は約二〇〇〇万円で競売されたが、もちろん競売価額は時価ではない。

2 本件船舶について、グリーン商事が昭和五〇年一月ごろ四五〇〇万円で買おうという話があつたが被控訴人が拒否して、結局契約締結に至らなかつたことがあつた。

3 昭和五〇年四月ごろ、被控訴人と太平海運との間で、約四七〇〇万円(控訴会社の被控訴人に対する借受残元金と遅延利息に相当)で売買する約束ができた。

4 太平海運代表取締役松原久義は、昭和五五年一〇月ごろの時価は舶令が八年から一〇年であるので、七、八千万円はすると述べている。

5 以上のとおり代物弁済の行われた昭和五〇年四月ごろの本件船舶の時価は少なくとも四五〇〇万円以上したのであるから、右代物弁済により本件資金債権は全部消滅したものである。

(被控訴人)

一  被控訴人は本件船舶につき代物弁済を受けたことはなく、代物弁済予約もないし、その完結権を行使したこともない。

1 控訴人らの主張一の1について

被控訴人が控訴会社の印や船舶権利証を預つた事実はあるが、控訴会社からの依頼に基いて保険契約の更新その他必要があつて一時的に預つたものである。臨港建設との傭船契約については、全く知らないし関係がない。

2 同2について

控訴人ら主張の日に代物弁済の予約をしたことは全くない。所有権移転の仮登記については、本件船舶の保全強化のため控訴会社と協議の結果行つたもので、被控訴人は中村司法書士を紹介したに過ぎない。

3 同3について

本件船舶の回航は、控訴会社了解の上で、当時太平海運へ売却するにも船舶自体がなくては困るし、管理保存にも支障があるので回航したのである。

4 同4について

当時の被控訴人の今治支店長村井昭郎は、控訴会社が本件船舶を処分して債務を弁済することに助力したのであつて、被控訴人が本件船舶を自由に処分できるなどとは考えていないし、発言もしていない。

5 同5について

被控訴人主張の事実はない。ただ太平海運が本件船舶を買取る場合融資をする旨の話合いはなされた。

6 同6について

被控訴人の主張事実は存しない。

7 同7は否認する。

二  本件船舶の時価について

被控訴人の主張は否認する。約二〇〇〇万円で競売された事実は認める。

第三  証拠〈省略〉

理由

一被控訴人の請求原因事実は当事者間に争いがなく、被控訴人が控訴会社の印と本件船舶の権利証を預り、所有権移転請求権の仮登記を経由したこと、本件船舶が約二〇〇〇万円で競売されたことは当事者間に争いがない。

二そこで、抗弁について判断する。

〈証拠〉を総合すると、次の事実が認められる。

1  控訴会社は、本件船舶(総トン数199.98トン)を所有し、他社にその運航を委託して利益を収めることを目的とした海運会社であつたが、手形の不渡りにより昭和四九年一〇月二二日倒産し、取引銀行の被控訴人(今治支店)に有していた預金債権は、被控訴人の控訴会社に対する貸金債権等と相殺され、控訴会社の資産としては、臨港建設株式会社(以下、臨港建設という。)に傭船に出し岩手県久慈港で稼働中の本件船舶だけとなつた。そのころ、被控訴人の求めにより、事実上代表者として控訴会社の経営に当つていた控訴人檜垣明彦は、所持していた控訴会社代表者印と本件船舶の権利証及び検査合格証書を被控訴人に預けさせられた。なお、前記預金との相談により、被控訴人の控訴会社に対する銀行取引上の残債権額は四六八〇万円ほどになつた。

2  本件船舶には、被控訴人の控訴会社に対する債権を担保するため、根抵当権が設定されていたが、倒産当時海運業界は不況で中古船の市場価格が低下していたので、被控訴人は、抵当権実行のための競売の手続をとらず、できるだけ高価に任意売却することにより債権の回収をはかることとした。被控訴人は、昭和四九年一二月ころ、その取引先でタンカー一隻、砂利船三隻を保有し運航していた訴外太平海運の代表取締役松原久義に本件船舶売船の話を持ち込んだ。松原は、控訴会社の取締役二人といとこ同士に当たり、その他の取締役とも友人知人の関係にあつたのと被控訴人の依頼でもあつたので、控訴会社のためにも被控訴人の申しいでに応ずるよう努力することとした。そのころ被控訴人の村井支店長は、松原とともに訴外芸予産業の社長に本件船舶の評価鑑定を頼んだところ、同社長は三〇〇〇万円なら芸予産業の方で引取つてもよいと意見を述べた。

3  一方控訴会社の取締役控訴人高野範らは、グリーン商事株式会社(以下グリーン商事という。)に控訴会社の債務を肩代りしてもらつて本件船舶を譲渡し、グリーン商事において前記臨港建設に船員をつけない裸で本件船舶を傭船に出し、その傭船料の中から右債務を分割弁済する案を立て、昭和五〇年二月被控訴人の同意を求めた。また控訴人檜垣明彦は、久慈港では冬の季節風のため本件船舶が稼働できなくなつたので、訴外芸予産業株式会社の仲介で同共栄運輸株式会社との間に、昭和五〇年三月一八日、本件船舶の傭船契約を結び、そのころ本件船舶を千葉県木更津港に回航させ、右契約による傭船料(一か月二七〇万円)で被控訴人に対する債務の分割弁済をする計画をたてていたところ、被控訴人が本件船舶は被控訴人が管理しているのであるから勝手に動かすなと指令してきたため、共栄運輸との契約は実行できなくなつた。

4  太平海運の代表取締役松原久義は、砂利船では採算がとれないので本件船舶を産業廃棄物を焼却できる炉を積んだ焼却炉船に改造し、産業廃棄物処理に関係のある業者に運航を委託すれば、傭船料も高く、本件船舶を控訴会社の被控訴人に対する債務全額に相当する四七〇〇万円で買い受けたうえ焼却炉船に改造するのに投資をしても採算に乗ると考え、それに要する資金を被控訴人が融通することを条件に本件船舶を買い取つてよいと被控訴人に申し出、その承諾を得たので、昭和五〇年二、三月ころ日商岩井の藤本部長から横浜市にある訴外昭和企業株式会社を紹介され、同社との間に焼却炉船の傭船契約の交渉を行つた。

5  被控訴人は、昭和五〇年三月二六日、被控訴人今治支店に控訴人の檜垣明彦、豊島日出夫、高野範、豊島清一、本件船舶の根抵当権者松友芳人を呼び出し、被控訴人側は、今治支店長村井昭郎、同支店次長菰田理則、支店長代理橋田徹が出席して、太平海運の代表取締役松原久義を引き合せ、被控訴人としては本件船舶を太平海運に処分し、それにより被控訴人・控訴会社間のいつさいの債務の清算をすることにしたいから控訴会社の取締役ら関係者全員はそれに同意してもらいたいと言い、本件船舶の任意売却権確保のため代物弁済の予約をすることも求め、松友芳人に対しては、本件船舶の処分の障害となるので根抵当権を放棄するように求めた。グリーン商事に本件船舶を譲渡したい意向を持つていた控訴人高野範が「この話しが後になつてだめになることはないか。」と確かめると、村井支店長は「みんなが承諾するなら被控訴人が責任を持つ。」と答えたので、控訴会社側出席者は、松友を含め全員が被控訴人の申しいでを承諾し、それに必要な登記手続等は、控訴会社の代表者印を保管する被控訴人に任すことにした。右の代物弁済予約を原因とする本件船舶の所有権移転請求権仮登記は、翌日の昭和五〇年三月二七日受付でなされた。乙三号証は被控訴人が、手続を依頼した中村司法書士に原稿を渡して作成させたもので、それにある本件船舶の売渡証書には控訴会社が本件船舶を売渡したとあり、それに添付された控訴会社の取締役会議事録には控訴会社が本件船舶を太平海運に四〇〇〇万円で売ることを承認したとある。その後間もなく松友芳人は前記約束にしたがい、前記根抵当権設定登記を抹消した。

6  太平海運は、被控訴人の委託を受け、昭和五〇年四月二一日木更津港で稼働中の本件船舶に自社の船員を乗り組ませ、同月二八日愛媛県東予港に回航した。太平海運はその回航に当たり、関東海運局千葉支局で、本件船舶の海員名簿中船舶所有者の住所と名称を今治市枝堀町二―三太平海運に変更する手続をしたが、それに必要な控訴会社代表者の委任状や印鑑証明書は被控訴人から送つてもらつた。太平海運は、本件船舶の元船員の給与、本件船舶に乗り組ませた自社船員の旅費、燃料代等のため約三〇〇万円を立替えて払つたが後日被控訴人からその支払を受けた。右回航後、太平海運は、被控訴人に本件船舶の鍵を全部渡しその支配に委せた。

7  そのころ、太平海運は、東予市の訴外田中商会に本件船舶に設置する焼却炉の製作代金を見積つてもらつたところ四五〇〇万円ということであり、訴外檜垣繁造船所に本件船舶を焼却炉船に改造する工事代金を見積つてもらつたところ三五〇〇万円ということであつた。そこで、太平海運は、右代金合計八〇〇〇万円に本件船舶買受代金四七〇〇万円を加えた総計金一億二七〇〇万円のうち一億二〇〇〇万円の融資を被控訴人に求めたところ、被控訴人今治支店長村井昭郎はこれを承諾した。資金繰りに追われていた田中商会が一時払いなら三〇〇〇万円で焼却炉の製作を請け負うと言つてきたので、太平海運は、被控訴人の了承を得たうえ、田中商会に焼却炉の製作を代金三〇〇〇万円で注文し、昭和五〇年五月ころ、被控訴人から三〇〇〇万円の融資を受け、太平海運は田中商会にこの三〇〇〇万円を手形で支払つた。その後太平海運と昭和企業との間の本件船舶を焼却炉船として使用する傭船契約は乙六号証のように話合いができ契約書に調印するだけとなつた。しかしその前に田中商会が倒産したのと、被控訴人がこの企業に不安を感じたらしく、この計画を推進させず沙汰やみとし被控訴人が昭和五〇年暮本件船舶の根抵当権を実行し第三者にこれを競落させた。

以上のとおり認められ、原審証人村井昭郎、同菰田理則の各供述中右の認定に牴触する部分は、前掲の他の証拠と対比し、措信できない。

以上認定の各事実によると、被控訴人は控訴会社が不渡りを出した後、控訴会社に残つた唯一の資産である本件船舶により債権の回収を図るよりほかに方法がないと考え、まず控訴会社の印と本件船舶の権利証を預り、それまでは根抵当権設定登記だけであつたものを昭和五〇年三月二六日締結の代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権の仮登記をなしたことにより代物弁済の予約を成立させたものであり、ついで同年四月二一日太平海運をして本件船舶を木更津港より東予港に回航させてその鍵を預り本件船舶を完全に自分の支配下におき、太平海運をして昭和企業との間で船舶の支配権者として傭船契約の締結を推進させ、太平海運は被控訴人の意に従がいその融資承認を受け資金を投じてその焼却炉の製造を発注するに至つたことに照らすと、本件船舶を被控訴人が木更津港から東予港へ回航させて自分の支配下においたときを以て、被控訴人は当時控訴会社に対して有していた全債権の弁済を受けるため本件船舶を代物弁済として控訴会社から譲渡を受けたものすなわちその意思実現により代物弁済予約完結権を行使したものとみるのが相当であり、それ故にこそ控訴人らも被控訴人の処置に服し本件船舶を代物弁済に供することを承諾したものとみられるので控訴人らの抗弁12は採用できないが抗弁3は理由があるといわなければならない。

被控訴人は所有権移転請求権の仮登記をしただけでその本登記をしたことはないからと代物弁済の予約の成立も予約完結権の行使も否定し根抵当権に基づく任意競売を実行しただけと主張しているが、この仮登記は所有権移転請求権保全の仮登記でない所有権移転請求権の仮登記であることからみて代物弁済の予約がなかつたといえないことは勿論抵当権は目的物件を債務者の占有下においてその使用収益を債務者に委すことが本来の性質であるのに、本件における被控訴人は所有権移転請求権の仮登記をなした段階から本件船舶を自らの支配下におくことを図り、木更津港から東予港に回航することによつて完全に控訴会社からその占有、支配を取得したものであるから、この時を以て被控訴人は代物弁済予約完結の意思を実現し代物弁済の要物性を充たしたとみるのが相当であり、被控訴人としては、控訴会社・被控訴人及び太平海運の三者間に昭和五〇年三月二六日に成立した契約の趣旨及びその席で控訴会社に対し被控訴人が責任を持つと明言した経緯からみて控訴会社から本件船舶の引渡を受けた後、遅滞なく控訴会社から既に受領している会社印や書類を使つて、本件船舶につき控訴会社から自分の方又は太平海運に対し所有権移転登記手続を行うのに格別の支障はなかつたのに、右登記手続をしなかつたのは被控訴人が自分の判断でこれを行わなかつたに過ぎないとみるのが相当で、本件船舶の占有支配が控訴会社から被控訴人に完全に移転しても代物弁済の予約完結とみず、依然として債権者の担保物件確保の手段方法にとどまるとみることは相当でない。

船舶についての代物弁済による債務消滅の効力は、不動産に準じその所有権移転登記経由等に生ずるとみる余地があるが、本件では代物弁済の予約完結にもとづく控訴会社から被控訴人への所有権移転登記を省略し、その予約完結後、遅滞なく控訴会社から太平海運への所有権移転登記を経由する三者間の合意があつたと推認することもでき、右の合意による所有権移転登記手続を行わなかつたのは、被控訴人の責に帰すべきものであるから、当時本件で所有権移転登記経由がなかつたからといつて、物件引渡しによる代物弁済予約の完結による債務消滅の効果を否定するのは相当でない。

三以上によれば、被控訴人の控訴人らに対する本訴請求は控訴人らの抗弁3は理由があるので、これを棄却すべきところこれと異なる原判決は失当であるから、原判決中控訴人らと被控訴人関係部分を取り消し、被控訴人の控訴人らに対する請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(菊地博 滝口功 渡邊貢)

《参考・第一審判決理由抄》

被告らは、抗弁1ないし3のとおり本件貸金債権は消滅したと主張するので検討するに、被告檜垣明彦、同高野範、同豊島日出夫各本人尋問の結果中には、一部右主張にそうかの如き部分がないではない。しかし、いずれも証人村井昭郎、同菰田理則、同松原久義の各証言に照らし信用することはできないし、他に右事実を認めるに足る的確な証拠はない。かえつて、証人村井昭郎、同菰田理則、同松原久義の各証言によると、被告会社は、昭和四九年一〇月二二日取引停止処分を受け倒産したが、原告は、当時被告会社に対し、本件貸金債権を含む四七〇〇万円の債権を有していたため、すでに抵当権の設定を受けていた被告会社所有の本件船舶を、第三者に売却することによつて債権回収を図るべく、昭和五〇年一月ころ、訴外グリーン商事との間に交渉が持たれたが、結局契約締結に至らず、同年三月ころからは、太平海運との間に交渉が始められたこと、そして、このころ原告は、被告会社との間で、前記抵当権の効力を強化するために、本件船舶について代物弁済予約を締結し、その旨仮登記したこと、そして、同年四月ころには、被告会社は、太平海運と本件船舶を四七〇〇万円で売却する、太平海運は本件船舶を産業廃棄物焼却船として改造使用する、原告は、右改造のための焼却炉購入費用のうち三〇〇〇万円を太平海運に融資する等の方向でこの実現に向け努力しあうことになつたこと、ところが、同年八月発注先が倒産し、焼却炉の購入は不可能となる等の事情により、結局右太平海運との売却交渉は立ち消えとなつたこと、そして、原告は、やむをえず本件船舶の抵当権を実行し、昭和五一年六月八日競売代金より本件貸金債権の一部弁済を受けるに至つたことが認められる。

従つて被告らの抗弁はいずれも理由がない。

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